四年三組のみんなへ  少し長い手紙

 

 よく教室におじゃましました。私の仕事は困っている子の手助けということでしたが、
簡単そうでなかなかむずかしかったです。一言二言で解決することもあれば、もっとた
くさん時間をかけてやり直さなければならないこともあったからです。さらに勉強のこ
とだけでなく、運動や工作など、手伝うことはいっぱいありました。それをひとりでき
りもりしている担任の先生はすごいなと感心しました。
 そして、お手伝いの時間は限られています。 いつもずうっとそばについていられれば
いいのですが、それは無理でした。もっと時間があればと思いながら、別れの時が来て
しまいました。
 ここに、いつかみんなに聞いてもらえたらいいなと思っていたことを書いておきます。         
 (実はみんなの前で話すのが、とてもはずかしいので)

 私は思います。みんなはすごい力を持って生まれてきました。考えてもみてください。
オギャーと生まれて、いつのまにか日本語をしゃべりだし、一人で歩けるようになりま
した。誰かに教わりましたか? いいえ、全部自分の力でできたことです。あなたの体の
中にその力があったのです。その力を与えてくれたのは誰でしょう。そう、お父さん、
お母さんであり、そのまたお父さん、お母さんであり、そしてそのまたお父さん、お母
さんへとずうっとつながっています。最後までたどれば、ネアンデルタール人にまでた
どり着くかもしれませんね。

 二本足で歩き始めた人類は、生きるために道具を作りました。けもののように強くは
なかったからです。寒さをしのぐために衣服を織り出しました。住みかも作りました。
すべて生きるためです。何千年もかけて積み上げてきた、そんな人類の知恵があなたの
体のどこかに眠っているはずです。

 人類は言葉や文字も発明しました。子孫に知恵を伝えるためです。学校ではいろいろ
ことを学びます。国語、算数、理科、社会、図工に体育、音楽。いっぱいありますね。
もう、やっていられないと思う子もいるでしょう。でも、その中には、その人類の知恵
がこめられています。教科書に書いてあることは、その知恵のほんの一部です。ですか
ら、今はつまらないなと思えることも、よけいなことはひとつもありません。
「なんで勉強しなくちゃいけないの」とよく聞かれました。「学校に行っているんだか
ら」では納得できないでしょう。人類の知恵を学ぶと言ったら大げさですが、今はそう
思います。

 みなさんはこの前2分の1成人式で、両親に感謝し、将来の自分の仕事を考えました。
とてもいいことだと思います。でもまだ早いかもしれません。これからじっくりゆっく
り時間をかけて考えてください。そのヒントになることが、学校でやっていることです。
これをやりたいなと思うことを見つけること。それが学校に行っている意味だと私は思
います。  

 ところで学校にはもっと大切なことがあります。同じ年に生まれた、同じ地域に住む
仲間と一緒に過ごすことです。それはまったく偶然の出会いです。どこかで何かがひと
つでもちがえば出会わなかった仲間です。しかも、ひとりひとりがまったくちがいます。
このいろんな子がごちゃまぜで、いっしょにいることが大事なのです。

  顔つきが違うように考え方も感じ方もみんなちがいます。同じ物を見ていても、同じ
音楽を聴いていても感じ方がちがうのです。このちがうのがあたりまえということをも
とにして物事が進めばいいのですが、そこは学校の悪いところで、みんなが同じじゃな
ければいけないという場面が多いのです。だからちょっと変わったことをする子を見る
と、あいつはおかしい、変だと決めつけてしまいます。あるいは自分も同じことをした
くてもがまんしているのに、あいつはがまんしていなくてずるいと思ったりします。
じゃあ、そんな子に対してどうしたらいいのでしょう。

  もし目の見えない人が困っていたら、あなたはすぐ助けようとするでしょう。でも変
わったことをする子は、困っているように見えませんね。しかし、その子も実はどうし
たらいいか分からないでいることもあるのです。それをうまく言葉で伝えられないので
変なことをすることもあります。そんな子たちをうまく導いてあげられるのは、信頼関
係です。この人なら信じられる、頼りになるなと思える人間関係です。本当の意味で
「友だち」ですね。  

 君たちのひとりひとりが、心から受け止め、話を聞いてあげる友だち関係でつながれば、
きっと変わってきます。悲しい時やつらい時に、誰かがそっとそばにいてくれるだけで、
落ち着いてくることがあったでしょう。人はひとりでは生きていけません。人と人とのつ
ながりの中で世の中は成り立っています。ひとりひとりがちがってひとりひとりがつなが
る。この地球と同じです。いろんな肌の色の人がいて、ちがう言葉をしゃべりながら、で
も同じ地球に暮らしています。    

 学校という場は、そんなごちゃまぜの子どもたちが自分の持っている力を探す場所です。
みんなの中には、眠っている力がたくさんあります。自分でも気づいていないことがたく
さんあります。まだまだいろんな可能性を秘めています。自分がどんな力を持っているか、
それを教えてくれるのが友だちです。どうかそんな広い気持ちで友だちのことを考える子
になってほしいと思います。

  長い手紙を読んでくれてありがとう。この一週間どうしたらみんなに私の気持ちが伝わ
るかずうっと考えていました。気持ちを言葉で伝えるのは本当にむずかしいですね。
少しでも分かってくれたらうれしいです。  
 では元気に学校生活を楽しんで下さい。もし、この手紙の感想を聞かせてくれたらもっ
とうれしいです。                          

                                 2013.3.8