木のおもちゃを子育てに生かして  2013.11.30 ラポール講演会    
「おもちゃのひろば」とともに  

 すでに孫育ての年になってしまいましたが、わが子が小さい時から続けてきた
「おもちゃのひろば」を中心にお話ししたいと思います。

1.木のおもちゃには若い時から興味があり、置いてある店も探しました。ニキティ
キに出会ったのもその頃です。たぶんいいおもちゃを子どもに与えたいと言う親バ
カ意識が相当優先していたのでしょう。
 子どもが生まれて、さらに欲しくなりましたが、いいものほど手が出る金額では
なく、ならばとテキスト首っ引きでおもちゃ作りが始まりました。
 一方仕事も支援学級に決まり、しかも未経験の通級制の「ことばの教室」。言語
にハンディを持つ子の指導でしたが、まずはその子との人間関係づくりが先。その
ための手段にもおもちゃが有効でした。その当時「自閉症」という障害が世間に知
られるようになった時期でもあり、私の教室でもそんな子の指導をしていました。
 そのとき佐々木正美さんに出会ったこともその後の教員生活の支えになりました。
 同時にこの時、小黒三郎さんのデザインした動物組み木を知ったこともその後の
人生を決定づけることになります。電動糸のことドリルを駆使して、その後ほとん
どのデザインを作らせてもらいました。パズルにもごっこ遊びにも使えるこのおも
ちゃにどのくらい助けられたか分かりません。わが子の誕生日にも好きな組み木を
作ってはせっせと渡していました。

2. 名古屋に転勤になり、そこからいわゆる校内にある特別支援学級の担任をするこ
とになります。そして同時にオリジナルの作品が少しずつ増えてきました。きっか
けはクラスの子どもたちとのやりとり。
 キジバトを育て、子猫の世話をし、卵からヒヨコをかえしとドラマチックなこと
をたくさんやってきました。その出来事を題材にデザインしてみたら、少しずつオ
リジナルの組み木作品が生まれてきました。さらに組み木の発展として切ってから
加工してダイナミックに遊べるおもちゃを考え始めました。 まずは学芸会の題材に
もなった「三匹のクマ」。手足、首を動かせるようにしたので、お話しの展開に使
えます。これに気をよくして、いわゆるお話シリーズが続きます。(3匹のクマ紹介)

3.この「三匹のくま」の作品がたまたま賞をいただいたことをきっかけに、それまで
構想していた「おもちゃのひろば」を開設しました。その頃、自宅はアパート住まい
で、たまたま隣りの家が空いたこともあり、その一軒を「ひろば」にしました。外に
は糸のこを置き、ひろばと同時進行で「組み木教室」も開催。毎月の自宅イベントが
始まりました。目的は木のおもちゃを中心とした図書館を作りたかったこと。自分の
目で見ていいと判断したおもちゃを提供すること。そして、自分でも作ってもらうこ
と。そんな思いのまま、二十数年が経過しています。このアパートのひろばは、一角
に雑木林があり、かくれんぼなどで遊べました。住人も気安い人ばかりで今でも理想
的な環境だったと思います。3カ所目の今は新築した一戸建ての家に地下室を掘り、
そこを「ひろば」にしています。また、それまで別の場所にあった工房も数年前に実
家をリフォームして、そこに糸のこを5台を並べ工作教室も続けています。

4.一方その後いくつか学校が代わりましたが、どこに行っても支援学級の柱は、〈も
の〉〈ことば〉〈からだ〉の三つを柱にしてきました。ものづくりを楽しみ、コミュ
ニケーションが豊かになることば力を鍛え、生き生きとした生活が送れる体を育てる。
それをいつも念頭に置き、目の前の子どもの状態を合わせながらカリキュラムを作っ
ていきました。
 気持ちとしてはものづくりも単に作るたのしみを伝えるだけではなく、そもそも人
類が衣食住の暮らしをどのように発展させてきたか、その原点にさかのぼって体験出
来たらという思いがありましたが、それは大人の姿勢にしまっておきました。それで
もたべものづくりを中心にいろいろなことにチャレンジしてきました。今日紹介する
機織りもそのひとつ。このものづくりのモデルにしていたのが、当時の八王子養護学
校の実践。羊を飼育して、羊毛を刈り糸を紡ぐ。牛を連れてきて、乳搾り、バターづ
くりと本格的なものづくりを目の当たりにして、とても真似は無理でしたが、小さな
教室でもできることを探していきました。

4. こんな風にまとめるととてもスムースに過ぎていったように思われてしまいますが、
全く立ち往生していた時間が「くすのき学園」での十年でした。情短施設という特殊」
な環境のここの子どもたちは、心に深い傷を抱いていました。何を育てるか以前に自分
を取り戻してあげなくてはなりません。その時役立ったのが、合板での生き物シリーズ。
動物に始まり、恐竜、鳥、クジラ、犬と続き、ほとんどの生き物が同じパターンででき
ることが分かりました。将来、立体の生き物図鑑になればと考えています。あと生命の
進化も表現したいです。この一部はワークショップ用の作品にもなりました。
 この学園では、誕生日を迎える子どものリクエストに答え、好きな動物や恐竜をプレ
ゼントしていきました。その他にもドールハウスや野球ゲーム、アニメキャラなどリク
エストに答えながら自分のレパートリーも増えてきました。無理難題に苦労もしましたが、
今は逆に感謝しています。
 うれしかったのは、何年か立って、ふっと連絡があり、「遊びに行っていいか、また糸
のこをやりたい」と言う。「あんな楽しかったことはなかった」とまで言う。手で覚えた
技は忘れないと言うのは本当でした。そんな卒業生が時々訪れてくれます。それもずっと
ひろばや工房を続けてきたおかげでしょう。

5.ここでやはり合板を駆使したお話おもちゃを紹介します。「おおきなかぶ」「おやゆびひめ」

6.卒業生といえば、3年前に工房をリニューアルした際オーブンにこれまでの卒業生に連絡
したことをきっかけに、ある子が毎月のように通って来るようになりました。すでに40近
い子ですが、彼女を連れて仲よく通ってきます。小学校以来なのですが、時間の経過を忘れ
てしまいます。二人とも社会人として家業の手伝いや作業所で働いています。それで、その
ときから特別に二人の時間を作り、昼ご飯を一緒に作り、その後工作に挑戦するパターンが
すでに3年続いています。お昼のメニューはそれこそ小学校時代のクラスで作ったものから
新しく挑戦するものまでいろいろ。いい時間です。

7.さて今悩んでいるのは、これからどんな作品を作っていくかということ。これまではほと
んど目の前の子どもを念頭にこんなおもちゃで遊んで欲しいという発想で作ってきました。
くすのき学園のように直接子どもから注文を受けたものから、こんなおもちゃを与えたい
と言うこちらの思いから作ったものまで、バリエーションを広げてくれたのは、まさに目
の前の子どもたちだったのです。それが、ひろばにも持ち込まれ、他の子どもたちの遊び
心を動かすことにも繋がっていきます。とてもいい環境にいることができたと思います。
たとえばこんな作品があります。
 今現場の子どもたちと離れた結果、自分の中だけの発想で作らなくてはなりません。ど
うなるか心配でしたが、作り始めているのはビー玉を使ったおもちゃ。赤ちゃんを念頭に
作り始めましたが、けっこう広がり新しい分野ができそうです。きっかけは小学校時代か
らひろばや工房に通っていた子が結婚して赤ちゃんが生まれたこと。試作しては見てもら
ってモニターになってもらっています。当然自分でも作る気満々のようです。私の気持ち
としては年齢を超えて、触っていることで慰めになるようなおもちゃをめざしています。
この後は全く未知数ですが、ひろばや工房を続けている限りそこにヒントがある気がしま
す。皆さんも機会がありましたらぜひ一度覗いてください。
今日はご静聴ありがとうございました。